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上達のコツ (11/25/2001)

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この記事は8分で読めます

「もう何年もバレエをやっているけどなかなか上達しない。」
「ちょっと上手な人はできてるのに自分にはどうしてもできないステップがある。」
「考えてみたらレッスンを受けることがルーティーンのようにパターン化している。」
何て聞くと思い当たる節はありますでしょうか。
今のペースで行ったらこの先何年でどのくらいまで上達するのか予想してみると気合いが入るかもしれません。
すでに気合は十分だけど結果が出せないでいる方はいらっしゃいますか。
もしかして気合が抜けてしまった方はいらっしゃいますか。
あきらめるのはまだ早い。
頑張るポイントをおさらいしてみましょう。
ここではどうやってレッスンに臨んだらもっと効率的にグイグイと上達できるのか考えてみます。

例えば、「アラベスクはできますか」と聞かれたら、
おそらくほとんどの方がとりあえず「できる」と答えるでしょう。
ではそのアラベスクはどれだけ基本に忠実でしかも美しいのでしょう。
本当はもう少し「あーしたい、こーしたい」と希望があるのではないでしょうか。
希望はあるけどなかなかできない。なぜでしょう。

動作のしくみ
アラベスクをしようと思ったとき、体の中ではどんなことが起こっているのか見てみましょう。
まず「アラベスクをしよう」という意志がおおもとになります。
これがアラベスクの始まりです。この意志はどこで生まれるかというと、大脳です。
次にこの意志は小脳に送られます。
小脳は待ってましたとばかりにアラベスクの記憶を引っ張り出してきます。
これは以前に経験したアラベスクがどういうものだったかという「からだの記憶」です。
その記憶といま現在の全身の各パーツの位置や角度を照合します。
その結果、足を上げようとか、手を伸ばそうとか決めて
全身の筋肉へ命令を出して動作を起こします。
その様子を図に表すと次のようになります。

           からだの記憶

「アラベスクをしたい」→→小脳→→→アラベスク

手足の位置と角度

このように「アラベスクをしたい」と思ってからだが動きはじめると
「手足の位置と角度」が変化し、その変化が小脳に伝えられます。
すると小脳は変化した「手足の位置と角度」の情報と「からだの記憶」を比較し
からだを動かすためのプログラムをもとに新しい命令を作り全身に送り出します。
その命令に従ってからだが動くと「手足の位置と角度」が変化するので
また新しい情報が小脳に送られ、「からだの記憶」と照合され……。
これの繰り返しでアラベスクという一つの動作が完了します。
つまり動作とは小脳のプログラムで作られる命令に従って
全身の筋肉が時々刻々収縮したり弛緩したりして得られる一連の動きのことなのです。

プログラムには必ず入力と出力があります。
例えば、身近なプログラムは自動販売機の中にあります。
自動販売機でジュースを買うとき、「お金を入れる」ことと「ボタンを押す」ことが入力になり、
ガチャンと出てくる「ジュース」が出力です。

先ほどの図も小脳を中心にして矢印を見ると入力と出力に分かれていることに気が付きます。
入力は「アラベスクをしたい」「からだの記憶」「手足の位置と角度」です。
出力は「アラベスク」です。
言葉を変えてこの図を書き換えてみると次のようになります。

             記憶

意志→→小脳→→→動作

感覚

入力は「意志」「記憶」「感覚」で、出力は「動作」です。

料理に例えれば「食材」「火加減」「料理人の味覚」が入力で、「できあがった料理」が出力です。
当然、入力のどれかあるいはすべてが改善されれば出力も改善されますね。
つまり入力の「意志」「記憶」「感覚」が今よりも改善されればそれだけ良いプログラムが作られ、
出力としてより良い動作(踊り)ができるようになる、ということです。

そこで図の入力系に注目してこれらがバレエの上達を妨げる可能性について解説します(出力系については後述)。

入力系について
・意志
「アラベスクをしよう」という意志のことです。大脳で起こります。
私が思うアラベスク、私にとってのアラベスク、がここに現れます。
もしアラベスクについて勘違いをしていたり、先生のお手本を十分に観察できていないことがあると、最初に設定した目標(アラベスク)が基本から外れてしまいます。すると何回繰り返してもなかなか上手く行った経験をすることができないので、良い「記憶」につながりません。その記憶が改善されない限り最終的な動作として現れるアラベスクはいつも今一つ決まりません。

・記憶
「まえにやったときはこんな感じだった」とからだが覚えているアラベスクの記憶です。
基本に忠実なアラベスクを経験したことがないと持つことが難しい記憶です。
毎回ばっちり決まれば理想的ですが、
そうはいかなくてもまぐれの1回でも良いから成功したときの
全身の感覚を記憶として残してあるかどうかが分かれ道です。
この記憶とからだから入ってくる「感覚」を照合して「動作」をプログラムするので、
せっかく敏感な「感覚」を持っていても
このからだの「記憶」が不十分だと良いプログラムを作ることができません。

・感覚
「いま手足はどうなっているか」「上半身はどうなっているか」「足の裏はどうなっているか」
など全身の感覚器から送られてくる感覚信号のことです。
この信号は絶え間なく送られてきて「意志」や「記憶」と照合され
新たな出力を送り出すために使われます。
したがって、「かま足」「あごが上がっている」「膝が下向いている」
といったからだの状態を正確に感じ取ることができないと
プログラムの際に動作やポーズの不備が考慮されません。
すると修正が行われることはないので本人は正確にやったつもり(意志)でも
実際にはアラベスク(出力)はできていません。

これら3つの入力が小脳の中で合わさって動作のプログラムが作られます。
動作を改善するという観点からすると、どれか1つでも改善されると他の2つが影響を受け、
結果として改善された出力が得られることになります。
つまり上達したことになります。

では上記3つの入力を改善して上達につなげるにはどうしたら良いか考えてみましょう。

入力系の改善法
・意志
「これぞ正しいアラベスク」というお手本を頭に入れればOKです。
これで動作の方向が決まります。
いま理解している(したつもりになっている)アラベスクを一度疑ってみてください。
教師、上手な先輩(後輩だったりもする……)、ビデオ、ステージなどを良く観察することが効果的です。
それもただ見るのではなく具体的な目標を設定してみることをお勧めします。
足先だけをずーっと観察するとか、骨盤の動きだけを観察するとか。
他にもいろいろと目標を立てて観察してみてください。
例えば、世界バレエ・フェスティバルを観に行って
「ああ、こう脚を上げるのか」「肩のラインはこうだったのか」と発見したとします。
さっそく家に帰って真似をしてみたら「あら、新鮮な感覚だわ」とか
「なるほどこうするのか」となるかもしれません。
窓に映してみると前より美しいアラベスクができるようになっているかも。
仮にその場では上手くできなかったとしても
今までの自分のアラベスクのどこがいけなかったのかが分かって、
具体的な改善の目標が見えてくるかもしれません。
そうなるとこっちのものです。
目標は明確ですから、今までより早く上達できるでしょう。

また、まじめにレッスンをしていると忘れがちなことの一つにイメージがあります。
パの意味やイメージです。例えば、フォンデュの意味は「溶ける」です。
チーズが溶けたら食べる「フォンデュ」になりますよね。
とろけるようにプリエをすれば良いのです。
パ・ド・シャの意味は「猫のステップ」。
飛び上がった猫の足が思い浮かびませんか。
パ・ド・シュバルの意味は「馬のステップ」。
ブルルッと唸りながら前足で地面を擦り上げる動きのことです。
アラベスクは装飾模様にちなんで名づけられたようです。
前に伸ばした腕、胴、後ろに伸ばした脚が弓なりに弧を描きハンモックに乗っているようなイメージはいかがでしょうか。
これら以外にもイメージできるパはたくさんあります。
イメージを持てば体が後からついてくるというわけです。
脚の角度がどうのこうのというのとは別なアプローチとして、
イメージ先行で動きの方向性を持つこともお勧めします。
なぜならイメージがともなわないバレエは、
芸術ではなくエクササイズになってしまいますから。

・記憶
速さはともかく「正確さではプロに負けない」というような動作を経験してみてください。
スピードは完全に無視して、慌てずにゆっくりと一つ一つの動作を確認しながら行って下さい。
これは正確な動作を経験することが目的ですから
レッスンの前に確認の意味で行うとよいでしょう。
特に高度な技術を要する動作に対して有効です。
技術的に難しい動作ほど確認の時のスピードは落してみてください。

一方、レッスン中にガンガン行くときは迷わずガンガン行っちゃった方が良いと思います。
というのは一連の動作の流れの中でこそ経験できる要素もあるからです。
これはいわば「成功体験」をするためのものです。
それも経験しておかないとより良い「記憶」を残すことができません。
また、一つの動作をひたすら繰り返すというレッスン方法もありますね。
これは繰り返すうちに筋肉が疲れてくたくたになって、
それでも繰り返しているうちに余計な力が抜けてくるのを待っているのです。
そこまで繰り返せば筋肉が疲れきってしまい余計な力を入れたくても入らなくなってくるのです。
それでもその動作をしようとすると結果的に必要最小限の力でのその動作を経験できることになりますね。
今時の野球では流行らないのかもしれませんが、
「千本ノック」の効用はまさにこれによるものです。
経験してしまえばそれを記憶に残すことができるのです。
したがって、通常のレッスンで「スピードはプロ並み、正確さは……」
ということを繰り返しているようではなかなか上達は難しいと思います。

・感覚
手足の位置や角度がどうなっているか、足の指が床をつかんでいる感じはどうか、肩はどうか、
骨盤はどうかなど、全身の感覚を研ぎ澄ますことが必要です。
「だからそれを改善して下さい。」
といわれてもどうして良いやら分からないかもしれません。
意外かもしれませんが感覚神経はいつもフル活動しているわけではありません。
「とりあえずこれぐらい活動していればいいか」とからだが勝手に判断して休ませている神経が結構たくさんあるのです。
からだには使わないと退化するという性質があります。
神経も例外ではありません。
いつも使っている神経は活発でいわばスイッチが入りやすい状態にあるのですが、
休みがちな神経は休息期間が長いほどスイッチが入りにくくなってきます。
このオフになったスイッチを少しでも多くオンに切り換えて、
手足の感覚をキャッチできれば小脳に入ってくる感覚情報が増えるので、
それだけ正確なプログラムが作れるようになると予測できます。

そこで改善法です。
例えば、アラベスクをするとき、
軸足の親指がどうなっているかを意識したらどんな感じがするか、
右肩だけを意識したらどんな感じがするか、
あごだけを意識したらどんな感じがするか、
とからだの各部位を浮き上がらせるように意識して動作してみてください。
その後でいつものようにアラベスクをしてみると意識しなくても各部位の感覚が敏感になっていることに気が付くと思います。
あるいは友達に頼んでどこかの部位に軽く手で触れてもらったまま動作してみるのも感覚を磨く助けになると思います。

それともう一つ。
まずバーや本棚などにつかまってアラベスクをしてみてください。
次に目を閉じてアラベスクをして、動きはじめからからだの各部位の状況をくまなく感じ取ってみてください。
その後で目を開けてもう一度同じようにアラベスクをしてみると、
目を開けたときと閉じたときとでは随分違う感じがするのではないでしょうか。
人間の場合、通常は五感の中で目からの情報が最も多いのでつい目に頼ってしまったり、
あるいは他の感覚まで意識が回らなくなったりしているのです。
これも実際には感覚神経の中で休んでいるものが結構あるために起きる現象です。
目を閉じたときの違和感が強いほど、普段、目を開けているときに感覚神経が休んでいるのです。

これの改善法は目からの情報をなくしてしまう、つまり目を閉じてしまえば良いのです。
目を閉じたまま、アラベスクならアラベスクを何回となく繰り返し、
手・足・首・骨盤・その他全身の部位の感覚をすべて実感すれば良いのです。
それを繰り返しているうちに目を開けていてもからだがどうなっているのかが分かってきます。

また、アレクサンダー・テクニックやフェルデンクライスは
この入力系の感覚を改善するのに大変有効であると考えられます。

上達のコツ(入力系)
入力系(意志・記憶・感覚)を改善すると、より良い出力(動作)が得られるということがお分かり頂けたでしょうか。まとめると次のようになります。

・意志:良いイメージを学ぶ
・記憶:正確な動作を経験する
・感覚:全身の感覚を鋭敏にする

出力系
出力系に注目して先ほどの図をもう一度見てみましょう。

             記憶

意志→→小脳⇒⇒⇒⇒動作

感覚

小脳で処理された入力信号が動作(手足の動き)になる部分(⇒矢印の部分)が出力系です。小脳からの出力が決まってしまえばそれ以上どうすることもできないなんてことはありません。
ここにも改善の余地はあります。
動作とは筋肉レベルで考えれば筋肉の収縮と弛緩のことです。
筋肉の収縮と弛緩は主に運動神経に支配されています。
運動神経の線維は背骨の中の脊髄から出てきて枝分かれしながら手足の筋肉に届きます。
筋肉も細かく見れば筋肉線維の束になっています。
その筋肉線維の一本一本に運動神経が分布していて、
必要に応じて筋肉線維に「緊張」とか「弛緩」とかの命令を送っているのです。

この命令は常にすべての筋肉線維に等しく伝わっているかというと、そうではありません。
入力系の感覚神経と同じように、出力系の運動神経も常にフル活動しているわけではないのです。
通常は「まあ、この程度活動させておけば動作に支障はあるまい」とからだが勝手に判断して、
開店休業状態になっている神経が結構あるのです。
例えば、運動神経線維100本のうち80本しか活動していないとすると、
あと20本分の余力があることになります。
「自分の実力はこの程度だ」と思っていても実はあと20%増の潜在力があるということです。

だから運動不足の人が筋力トレーニングを始めると、
運動神経から筋肉への命令が急激に増加し、
トレーニング前には開店休業中だった筋肉線維が運動に参加するようになります。
この段階では、筋肉の太さは変わらないのに筋力が増すという現象を体験できます。

火事場のバカ力
だから火事などの極度の緊張状態に陥ると眠っていた神経が一気に目を覚まし、
普段使っていなかった筋肉線維まで活動させることができるので、
箸より重たいものを持ったことがない様な人がたんすを担いで逃げ出せたりすることがあるのです。

運動神経に活を入れる
運動神経を開店休業状態にしている原因は、
「まあ、この程度活動させておけば動作に支障はあるまい」というからだの判断でしたね。
これは見方を変えれば、からだに甘く見られているのです。
「この程度でも用は足りている」「指令塔(大脳)は文句を言わない」と思われているのです。
ということは「この程度では大脳に納得してもらえない」と
からだが心(?)を入れ替えてくれる状況を作れば、
眠っていた神経が活動を始め、これまで以上の力を発揮できるようになるのです。
つまり、運動神経に活を入れれば良いのです。

話がバレエから離れてしまいましたが、この知識をレッスンに生かす方法は、
バレエの動作をするときに、今まで以上にからだの各部位を具体的に動かそうとすることです。
例えば、アラベスクをするなら、漠然と「いつも通り」のアラベスクをするのではなく、
手・足・首・その他の部位に対して具体的な指示を今までより強く出すのです。
感覚神経を目覚めさせるのと同じ様にすればよいのです。

これは何もレッスン中はいつもそうしなければいけない、
というものではありません。
もちろん、いつも活を入れるように心掛けた方が早く良い結果が得られると思いますが、
当初はレッスンに支障を来たす可能性があります。
例えば、一時的に、ステップがぎこちなくなったり、
今までできていたパができなくなったりすることが予想されます。

ですから、バーでだけこれを意識するとか、
センター・ワークのしかも後半でだけ意識してみるとか、
自分なりの取り入れ方をいろいろ工夫してみる必要があると思います。
そうしていると、眠っていた運動神経が活動を始めるだけでなく、
小脳→運動神経→筋肉線維のコミュニケーションが密になってきて、
今までできなかったような微妙な動きまでできるようになってくるのです。

上達のコツ(出力系)
出力系(小脳→運動神経→筋肉線維のコミュニケーション)を改善すると、より良い出力(動作)が得られるということがお分かり頂けたでしょうか。まとめると次のようになります。

・運動神経に活を入れる!

全体のまとめ
全部を一度に改善できれば理想的かもしれませんが、人にはそれぞれ個性があります。
各自の個性に合わせて、できそうなポイントを選んでみてください。
下記のポイントのうちどれか一つでも改善できれば結果を実感できるでしょう。

入力系
・良いイメージを学ぶ
・正確な動作を経験する
・全身の感覚を鋭敏にする

出力系
・運動神経に活を入れる!

狙って上達しましょう。

ダンサーのからだ

  • 2016 08.21
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