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ロシアバレエにあって日本にないもの

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ロシアバレエの素晴らしさは枚挙に暇がありませんが、その中でも特筆すべきはバレエダンサーの完成度の高さだと思います。

単に高いだけでなくて、毎年のように素晴らしいダンサーを輩出し続けているということにも驚かされます。

ロシアの場合、国立のバレエ学校が幾つかあり、充実した講師陣と学校設備、劇場や街並みといったバレエを学ぶ上での教育環境が整っている点が、日本と大きく異なっています。

でもそれだけでしょうか?

仮に(実際にそうなって欲しいですが)、日本で国が潤沢な予算を充ててバレエ学校を作り、充実した設備を整えたとして、それだけで世界最高レベルのダンサーが毎年のように輩出され続けるかというと、おそらくはそうならないと思います。

オーディションはどうする?

これも、仮に(実際にそうなって欲しいですが)、ロシアと同じくらいの厳しさで10歳くらいの生徒をふるいにかけて入学させたとします。それで、どうなるかというと、おそらくまだ足りないと思います。

ロシア国立ボリショイバレエ学校でバレエ教師をされていた日本人がいらっしゃいます。

中川三千代先生(ソフィア・バレエ・アカデミー)です。

中川先生は、こちらの動画の中でこう語っていらっしゃいます(10:45〜)。

「バレエ学校で最初の一年間で習うことは、
立つことと、手をどうやって正確に使うか。
それだけなんです。
そして、その上に少しずつ積み上げて、
色々なことを学年ごとに増やしていき、
最終的に完成したものはかなり技術的に
高いものになる。」
『ワガノワ 名門バレエ学校の秘密 ~くるみ割り人形への110日~ 特別試写会』より

なぜ一年生はそれしか習わないのか?
二年生で何を積み上げるのか?
三年生で何を積み上げるのか?

その全体像が見えていなければ、答えられないですね。

ロシアのバレエ教師は、それに答える指導をしている。
答えがあるから、指導に一貫性が保たれる。

その結果、毎年のように優れたバレエダンサーが育っているわけです。

さらに、動画の中で、中川先生はこうも語っていらっしゃいます(17:13〜)。

「日本のバレエ教育のスタートは、
プロのバレエダンサーでもなく、
プロのバレエ教師としての教育を
受けたことのない方達だった。
(中略)
それが伝達ゲーム的に広めていったので、
少しずつ変わってしまった。」

これでは、ここで習った生徒から習った生徒から習った生徒、、、

と世代を経ていくと、
各人がてんでバラバラなことを教えている、
という表現が、もっとも実勢を表しているのかもしれません。

長年にわたってバレエ教育に一貫性を保っているロシアバレエと、

スタートから一度も一貫性を持ったことがない日本のバレエ教育と間にある決定的な違い。

それが、カリキュラムです。

一年生で何を教えるか(教えないか)
ニ年生で何を教えるか(教えないか)
三年生で何を教えるか(教えないか)、、、

厳密に規定されたもの。

それがカリキュラムです。

つまり、プロのバレエ教師とは、
カリキュラムに沿った指導ができる人のことを指します。

間違っても、

「今日は何教えようかな…」

とつぶやくようなことはありません。

なぜなら、今日のレッスン内容は、最初から決まっているからです。

そんな、歴史的な背景もあり、
日本ではカリキュラムを使わないバレエレッスンが当たり前になっています。

これはバレエだけに起こった特殊なケースなのかというとそうでもなさそうです。

実は、ロシアが世界のトップであり続けている分野が他にもあります。

その一つが新体操。

ロシアには、分厚い新体操の指導カリキュラムがあり、体育大学でしっかりと学ぶそうです。

新体操のコーチとは、カリキュラムに沿った指導ができる人のことを指します。
そうでなければ、プロになれない。

バレエと同じですね。

世界最高レベルのダンサーや選手を輩出し続けているというロシアの共通点を考えると、

カリキュラムに沿った指導ができるか否かが指導力を決定づけていると言えなくはないでしょうか?

生徒や選手は、そのカリキュラムに沿った指導を受けることで、世界最高レベルまで実力を高めていける。

ということは、
日本のバレエ教育や新体操教育で、世界最高レベルのダンサーや選手を毎年のように輩出し続けるには、カリキュラムに沿った指導を取り入れることがもっとも有効なことではないでしょうか?

日本の現状。

それは、教師がお手本を見せて、生徒に真似をさせる。

その場でできなければ、出来るまで反復させる。

というパターンが基本になっているということはないでしょうか?

この従来型の指導法は、定着している分、疑問に思われないかもしれませんが、

実は、国際ダンス医科学学会(IADMS)が、以前教師向けの勧告文にまとめ、「完全否定」しています※1

一部をご紹介すると、その弊害として、

生徒が
・褒められたがりになり
・指示待ち人間に育ち
・自分のからだの声が聞こえないままで
・モチベーションに欠け
・上達に必要な基礎概念に欠け、たとえば
解剖学がわからず
メカニズムがわからず
身体について鈍感で、などなど

とあります。
その結果、

・自分の身体の限界がわからず
・平気で無理をして身体を壊し
・自滅していく、などなど

かなりはっきりと書かれています。

実際、日本のバレエ界、新体操界で思い当たるフシはないでしょうか?

ロシアは国家主導ですが、
民間主導でバレエというより、ダンス教育が盛んな国がアメリカです。

ダンスのスタイルは違うにせよ、
NYCBやABTを筆頭に、やはり優れたダンサーを輩出し続けています。

そのアメリカのダンス教師はカリキュラムを使っているのかというと、
ある意味その先を行っています。

教師自身が自分の指導法をカリキュラムにまとめて、販売しています。

(筆者撮影。Dance Teacher Summit 2014会場にて)
教師全体からすると少数派かもしれませんが、自分の指導法を体系づけてカリキュラムにまとめて販売するということが普通に行われています。

こういったカリキュラムが、教師が千人規模で集まる巨大セミナーの会場等で販売されているのです。

興味を持った教師は、それを購入し自身の指導に取り入れるという形で、ダンス教師同士が自律的に成長しあう状況になっています。

海外のこういった状況を見てみると、
日本のバレエ教育の発展に必要なものの一つとして、カリキュラムが挙げられるのではないでしょうか?

各学年で教えるべきことと教えるべきでないことの線引をした指導。
カリキュラムに書かれたルールや法則を生徒に伝えることに集中する指導。

そういった指導内容に向かって振り子を振る時期に来ているのではないかと思います。

※1 “Teaching to the Whole Dancer Synthesizing Pedagogy, Anatomy, and Psychology,” IADMS, 2009.

参考図書

参考サイト
ソフィア・バレエ・アカデミー

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