日本語版監修をさせていただきました。
マリインスキー劇場バレエ団元主任医師Dr.デニス・カブルコフ主催のボリショイ・バレエフォーラム2024に特別ゲストスピーカーとして招待されました。発表テーマは下記を予定しています。
中足骨を介した体重伝達の形態がバレエの動作制御と脚の痛みに及ぼす影響
”The influence of forms of body mass transfer through the metatarsals on movement control in ballet and leg pain.”
Hiroyuki Nagaki, (2024), March 10-11. https://bolshoiforum.ru/
「カマ足!」
バレエのレッスンで聞かれる指摘の代表かも知れませんね。
よく耳にするけど簡単には改善されないので困っている人も多いはず。
今回は、その「カマ足」について、イチロー選手のトレーニングを少し交えて解説させていただきます。
今回は動足の「カマ足」を想定して解説します。
軸足の「カマ足」については、追加の説明が必要となり、それは別な機会に。
「カマ足になる」
これは、バレエでは禁忌とされています。
が、解剖学的には正常となります。
「どうして?」
と思った方のために、骨と筋肉に分けて解説します。
◼️骨について
足首まわりの構造は複雑で、特に「カマ足」は、複数の関節が動いて出来る形なので、より複雑です。
簡単な関節の例から説明すると、
「曲げる、伸ばすだけの膝」
これは膝を左右に貫く回転軸に沿った太ももと膝下の回転運動です。
「回転運動」と出てきましたが、骨が大きく動く場合、たいてい回転運動の一部となっています。
「曲げる、伸ばす」
で言うと、肘も同様の動きですね。
それに対して「カマ足」は、土踏まずのあたりの関節が動くわけですが、回転軸がイメージできるでしょうか?
そもそもサイコロみたいな塊状の骨が集まっている部分だし、回転軸はあるにはあるけど向きが分かりにくいです。
「斜め」に傾いているので捉えにくいのです。
土踏まずを左右に貫く軸を想定して、内側(母趾側)を前と上にずらした様な斜めです。
この斜めに傾いた軸に沿って、足部が回転するのでカマ足になります。
なので、骨に注目すると、「カマ足」になるのは自然な動きになります。
言い換えると、「カマ足」になるように関節が作られているということになります。
これが、先程「カマ足は解剖学的には正常」と書いた理由です。
◼️筋肉について
足をポイントする動きは、足首を底屈方向へ引くことで行われます。
このとき複数の筋肉が一緒に縮むのですが、大きく二つのグループに分けられます。
・内寄り(母趾側、カマ足側)に引く筋肉と、
・外寄り(小趾側)に引く筋肉。
これらは強さに違いがあります。
前者は後者の3倍強いです。
それだけ沢山筋肉がついているということです。
なので、普通にポイントしようと力を入れると、内寄り(母趾側、カマ足側)に3倍強く引いているわけです。
つまり、筋肉に注目しても、「カマ足」になるのが正常です。
◼️「カマ足」は正常
以上から分かることは、骨と筋肉どちらも「カマ足」になる様に出来ている、と言うことです。
つまり、解剖学的には
「カマ足は正常」
「カマ足でいい」
と言うことです。
◼️なぜ「カマ足」?
それは、進化によるものです。
人の祖先が、樹上生活をしていた頃、足は枝に掴まるのが常でした。
楽に安定して枝を掴まえられる足を持つものが生き残り、転落しやすい足を持つものが淘汰されていったであろうことは想像できますね。
その結果が「カマ足」です。
「カマ足」の方が枝に掴まりやすいのです。
そうなる様に骨も筋肉も進化した、と言う訳です。
◼️なぜバレエではダメ?
タンデュで前に足を出した時、
「逆カマ足」になっていると、
トウシューズの先端面(プラットホーム)が床に接しています。
これが「カマ足」だと、
先端の面ではなく小趾側の角が接しています。
この状態から、その足に立ちに行く動きを想像してみてください。
前者は、
プラットフォーム(面)で体重を支えるので安定しています。
下図の面(1)のことです。
後者は、
小趾側の縁(3)や角(4)で体重を支えるので不安定で、しかも滑りやすいです。
面、縁、角。
どれが一番安定するかと言うと、面(1)になります。
なので、オーディションの段階で前者、つまり「逆カマ足」の生徒を選ぶことになります。
基準がそこにあります。
◼️基準をどこに置くかの問題
では、
「逆カマ足」を解剖学に照らすとどうなるでしょうか?
答えは明確で「解剖学の例外領域(異常)」となります。
解剖学とは、
「一般的によくある普通の体」
の知識です。
「こういう人が多い。」
ということ。
一方、バレエは、
「普通じゃなくていい」
「解剖学の例外でいい」
「バレエが踊りやすければいい」
という前提です。
つまり、解剖学とバレエは前提(基準)が違うのです。
◼️どれくらい基準が違うの?
脚の長さを例に取ります。
身長に占める脚の長さの割合は、日本人で40〜45パーセント位です。
これがワガノワ・バレエ・アカデミーの入学基準では、50パーセント位です。
体の半分が脚。
普通、いません^^;
でも、身長にばらつきがあるように、脚の長さにもばらつきがあります。
なので、生徒100人集めて脚の長い順に並ばせると上位数人位が該当するようです。ただし、ロシアの場合。
日本だと数百名集めないと見つからないかも知れません。
それくらい珍しい(普通じゃない、例外)領域の話です。(>_<)
でも、バレエ的には、条件が良い、恵まれた体となります。(^_^)v
ロシアの国立バレエ学校のレッスンをYouTubeなどで見ると「体の半分が脚」になっているのがお分かりいただけるかと思います。
◼️「カマ足」をなおす
「カマ足」であることは、人類が獲得した進化の成果とも言えます。
これを「逆カマ足」にすると言うことは、その成果を手放すことになります。
なので、「なおす」と言う言葉は、意味合いが違い、むしろ逆です。
わざわざ淘汰されそうな足にする、という事になります。
でも、今から樹上生活に戻る人はいないと思いますので、そう言う意味では「逆カマ足」に改造しても、淘汰されることはない。
だから構わないとも言えます。
これらを踏まえて改造するかどうかを選んで頂くことになります。
◼️「逆カマ足」の作り方
そもそも「カマ足」になりやすい構造になっていますので、それを逆方向に変えて行くのは容易ではありません。
ただし、生物には環境に適合する性質(特異性の原理)があります。
筋トレしたら筋肉がつくとか、
ストレッチしたら柔軟性が高まるとか、
体が環境に適合していく性質のことです。
それを利用して「逆カマ足」の環境に足を晒すことができれば、今よりも「逆カマ足」に近づくことは期待できます。
どこまで改造出来るかは、足の条件と提供できる環境によって決まります。
したがって、理想的な「逆カマ足」が保証されることはありません。
つまり、何をやってもだめな人はダメ、ということです。
ただし、今まで「逆カマ足」を作る努力(効果的なもの)をしてこなかった場合、改善の余地があるかも知れません。
そこはご理解いただいた上で出来ることは、次の4つです。
カマ足対策1)
「逆カマ足」のブレーキになる筋肉・腱・靱帯・筋膜を伸ばす。
カマ足対策2)
足部の関節の癒着を剥がす。
カマ足対策3)
「逆カマ足」のアクセルになる筋力の強化1(神経の正常化)
カマ足対策4)
「逆カマ足」のアクセルになる筋力の強化2(筋トレ)
1は、ストレッチのことです。
4は筋トレのことです。
1の効果は得やすいですが、
2と3が未解決なまま、
4を行っても十分な効果は得られません。
普通は、ゴムを使ったりして筋トレ(4)が提案されることが多いですが、成果が得られないとしたら、理由はそこにあります。
そして、取り組む順番も上記1〜4の順となります。
つまり、上記に照らすと、普通真っ先に取り組む筋トレは、実は最後にやれば良いことなんです。
この後、具体的に対策を示します。
いずれも無理をすると怪我につながりますので、強い負荷がかかり過ぎないように注意しながら行ってください。
「少し物足りない。」
くらいで丁度良いです。
■カマ足対策1
「逆カマ足」のブレーキになる筋肉・腱・靱帯・筋膜を伸ばす。
人に頼む場合
整体などで逆カマ足側に甲を伸ばしてくれる人に頼む。
これを最初に持ってきたのは、最も早く結果が得られる可能性が高いからです。
自分で行う場合
自分で動かす
初期の段階では伸ばすことより、回すことを多くした方が足への負担が軽く、変化も実感しやすいです。
例えばこちらの動画
(バレエジャポンさんの動画)
手で動かす
この動きをご自身の片手でかかとを押さえ、もう片方の手でつま先をつかんでぐるぐると回すとより伸ばすことが出来ます。
ただし、手が疲れます。(;´Д`)
甲出し器を使う
甲出し器を使ってストレッチをする。
市販のものがたくさん出ています。
ただし、「逆カマ足」方向に伸ばせるものは多くはありません。
足底部が湾曲しているものは、真っ直ぐ伸ばすには有効ですが、「逆カマ足」方向には伸びがかけられませんので、この目的では不適です。
足底部が平らなタイプのものをお使いください。
ただし、真っ直ぐに伸ばして行くと、
上述した足の構造上「カマ足」側に曲がって行きます。
なので、そうならないように対策する必要があります。この対策をすると、「逆カマ足」側に伸びをかけられるようになります。
こちらの商品ではその使い分けが可能です。
(当方が扱っている商品のアマゾン店より)
同様の商品も他所様から出ていれは、それでもいいです(たぶん)。
真っ直ぐに伸ばす分には問題なさそうです。
■カマ足対策2
足部の関節の癒着を剥がす。
人に頼む場合
これも人に頼むのが一番早いです。
癒着が剥がれると、文字通りその瞬間に甲のアーチの角度が変わります。
自分で行う場合
手で動かす
対策1と同じ。
ただし、癒着を自分で剥がすのは非常に大変です。ほとんど不可能なので諦めたほうが良いです。
甲出し器を使う
市販の甲出し器の中でこの目的で期待できるのはこちらです。
ただし、強度の調整幅が非常に広いので、安全を考えて最も弱い強度から始めることをお勧めします。
「逆カマ足」側に伸ばすことも可能ですが、1人では出来ません。どなたかに器具を押さえてもらうサポートが必要です。それを考慮しても素晴らしい器具だと思います。
(バレエショップシルビアさんのお店より)
■カマ足対策3
「逆カマ足」のアクセルになる筋力の強化1(神経の正常化)
人に頼む場合
これは、厳密に言うと病理に近い状態なのですが、病気ではありません。一時的な機能低下のことです。肩こりを病気とは呼ばないのと同じです。
したがって、病院に行っても正常とみなされます。
整体などの領域となりますが、この現象を扱える方は、かなりの少数派かも知れません。この現象の存在自体認識されていないか、知っていても対応できないかも知れません。
なぜここに入れたかと言うと、このケースの方はとても多いことと、これが改善されると、即効性があるからです。
しかも4の筋トレが不要なので、ご本人が楽ですし、筋肉が太くなることも避けられます。結果が出るまで数週間待つこともありません。一石何鳥にもなります。
■少し脱線
イチロー選手のレーザービーム
イチロー選手は見た目の筋肉量からの予想を超えるほどのハイパフォーマンスを見せていると思いませんか?
レーザービームのような投球とか、かなりの筋出力が必要そうですけど、彼はそんなに筋骨隆々ではありませんね。
なぜでしょう?
その原動力の一つが、特殊なトレーニングマシンで筋肉の状態を整えていることにあると言われています。
初動負荷理論というものに基づくトレーニングなんですが、開発者の小山裕史博士は、筋肉に負荷をかけて筋力アップを計るのではなく、神経系の機能改善を優先されていると語っている動画を見たことがあります。
これがおそらく3に該当するのではないかと思われます。
そのトレーニングで得られる筋肉の状態が、3で正常化された状態と思われます。
この部分を説明しようとすると、生理学の話を長々としないといけないので、ここでは割愛させていただきます。ご了承ください。
■カマ足対策4
「逆カマ足」のアクセルになる筋力の強化2(筋トレ)
バレエのパーソナルトレーナーさんに頼むのがよろしいかと思います。
一般のトレーナーさんの場合、「逆カマ足」と聞いても何のことか分からないかも知れません。
特に、上述のトウシューズと床の接する部位のことなんか、今まで一度も考えたことがないかも知れません。
整形外科に行って、「プリエの時」とか言っても「何それ?」と返されるのと同じです。
ただし、前述のように優先順位は1〜3の方が高いです。
一般的には、「では筋トレ」となりがちですが、上記の中では優先順位は最後となります。
それでも簡単に始められるのは事実なので、一つ動画をご紹介します。
(バレエ教師 石島みどりの動画)
◼️まとめ
長くなってしまいましたが
カマ足=悪(- -メ
と思われがちですが、必ずしもそうではないと言うことと、
カマ足の改善は容易ではないこと、
その中でもできることをいくつかご紹介させていただきました。
動足の「カマ足」については以上です。
軸足の「カマ足」については、上記の他にまったく別な要因が考えられます。
当然対策も別なものが必要となります。
ですが、長くなるので今回は割愛させていただきます(本ページ下部参照)。
参考にしていただけましたら幸いです。
参考記事
「カマ足、カマ足」と繰り返していませんか?繰り返すには原因があります。そして生徒さんの方が詳しいなんてことが起きているかもしれません。『指導? それとも指摘?』
進化の軌跡がカマ足に残っている。とても大切なことだと思います。
◼️新しいカマ足の原因と対策
中足骨の不揃い(イカ足)
こんな感じの足、見たことありますよね?
このとき、トウシューズの中はどうなっているのでしょうか?
小趾側に傾く構造です。
つまり、中足骨が小趾の方に向かって短くなっていると、そしてその落差が大きいほど、カマ足になりやすい構造と言えそうです。
これが「イカ足」の特徴の一つです。
構造の問題なので、鍛えても変わりません。
今まではトゥシューズでルルベをすると足の小指側に体重が流れやすく、グラグラして安定しないと感じていたそうです。イカ足サポーターをつけると親指側にグッと乗りやすくなり、安定感が得られたと言っております。イカ足サポーターをつけたルルベが安定感100と設定すると、サポーターをつけてない時のルルベの安定感は30~40くらいだと話していました。初めての安定感を実際にスタジオで試してみたいようで「早くイカ足サポーターをつけてレッスンをしたりバリエーションを踊ったりしてみたい!」と嬉しそうに言っています。(札幌市、S.A様)
すでにこういった変化も起きています。
カマ足でお困りの方は、こちらを解決したほうが早いかも知れません。
「イカ足」についての詳細はこちらをご覧ください。
イカ足については2020年にワガノワ・バレエ・アカデミー主催の国際学会でも発表済みです。
ロシアで活躍するプロバレエダンサーもすでに知るところとなっています。
ワガノワ・バレエ・アカデミーの生徒やマリインスキー劇場バレエ団の現役ダンサーの中にも日常的に使用している方がいます。
ボリショイ・バレエフォーラム2022と2024で2回発表する機会を頂いたことがきっかけで、ロシアのバレエ、新体操、フィギュアスケート関係者の知られるところとなってきています。
毎月YouTubeで最新情報を発信しています。
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