「ダンサーと肥満」
これは切っても切れない永遠のテーマですね。
(いきなりショッキングなテーマに他のページにジャンプしないで下さいね)
特にバランシンの登場以来ダンサーは世界的にスリム化しています。
ダンサーにとって肥満は大敵。
なぜって
体型美が崩れる
ステップが重くなる
男性にリフトしてもらえなくなっちゃう
怪我のもと、など
肥満のもたらす惨状─はいい過ぎか─影響は数えればきりがありません。
ところで「自分は肥満だ」と思い込んでいる方、
「もっと痩せなきゃ」といつもおののいている方はいらっしゃいませんか。
とりあえずダイエットしたり、
汗を絞り出すような格好でレッスンをしている方はいらっしゃいませんか。
ちょっと待って下さい。あなたは本当に肥満なのでしょうか。
仮にそうだとしてどの程度の肥満なのでしょうか。
どこまで痩せれば良いかという目標は明確ですか。
もしこれらの質問の答えが見当たらない方がいらしたら、
ご自分の肥満度についてここで客観的に評価してみませんか。
(そんな恐ろしいことを、などと言わずに。ほらこっち見て)
そしてプロのトップダンサー達の肥満度と比較してみませんか。
肥満とは
そもそも肥満とは何なのでしょう。
肥満とは、単に体重が重いことをいうのではなく、
体脂肪が余分にある状態をいいます。
「余分」てどの程度なのかしら?
実は肥満の判定基準は色々あって、現状では統一されていません。
一般的に知られている評価法を二つに分けると、
体脂肪率を推定する方法と身長と体重から推定する方法があります。
これらは後述します。
ところで、スポーツマンなどに見られる
筋肉が発達していて身長の割に体重が重い状態は、
肥満ではなくて過体重といいます。
スポーツマンでなくても体質的に筋肉質の人っていますよね。
そういう人も見た目の割に体重があるので過体重の部類に入ります。
肥満の問題点
肥満が進むと色々な症状が出てきます。
まずダンサーに関係するのは骨・関節障害です。
跳んだり跳ねたりすると
体重の何倍もの衝撃が関節にかかりますから、
関節が痛み出すことがあります。
その他に内分泌・代謝性疾患、循環器疾患、消化器疾患、不妊症、
ガンなどいろいろな疾患を合併することがあります。
肥満の判定基準
1.体脂肪率の推定による方法
成人では男性なら20%以上、女性なら30%以上が肥満とされています。
インピーダンス法や皮下脂肪厚の測定のほかにもいろいろあるのですが、
最も身近なのはインピーダンス法でしょう。
これは薬局とかで売っている体重計に電極をつけたものや
両手で握って計るおなじみの方法です。
この方法は普及している割に正確な評価ができないのが現状です。
つまり、どの程度肥満しているかはっきり判定できないのです。
測定するときの姿勢や測定時刻によっても変動するので
それをわきまえて測定しましょう。
2.身長と体重から推定する方法
身長、体重、性別、年齢などから推定する方法です。
BMI (Body Mass Index) 法、ブローカ指数、桂法などがありますが、
最近では BMI 法が普及してきて、雑誌などでもよく見かけます。
ダンサーの肥満度を調べよう
そこで、この BMI 法を使ってプロのダンサーの肥満度をチェックしてみましょう。
その前に BMI 法の計算方法を説明しておきます。
BMI 法の計算式は次のとおりです。
BMI =体重 (kg) ÷身長 (m) ÷身長 (m)
身長がメートル単位 (m) であることに注意して下さい。
たとえば、160cmの人なら 1.6m ですので、体重が 50kg であれば
BMI = 50 ÷ 1.6 ÷ 1.6 = 19.5
となり、BMI は 19.5 になります。
では BMI が 19.5 とは、どの程度の肥満度なのでしょうか。
BMI の判定表は次のとおりです。
判 定 | BMI |
や せ | 20 未満 |
普 通 | 20 ~ 24 未満 |
やや肥満 | 24 ~ 26.4 未満 |
肥 満 | 26.4 以上 |
したがって、BMI = 19.5 は「やせ」と判定できますね。
これはあくまでも成人の場合の判定法とお考え下さい。
成長中の子どもには大きく分けて「やせ期」と「肥満期」があるので、
成長が一段落した 18 歳以上を対象に判定した方が無難だと思います。
トップダンサーの肥満度
具体的にプロのトップダンサーをこの BMI 法で判定してみると
どの程度の肥満度になるのか調べてみましょう。
「ダンサーズ・ダイエット・ブック」に掲載されている
世界的トップダンサー 6 名の身長と体重をもとに
BMI を求めてみると次のような結果が得られます。
身長 (cm) | 体重 (kg) | BMI | 名前 |
159.6 | 42.3 | 16.6 | ナタリア・マカロワ |
162.7 | 45.5 ~ 47.7 | 17.2 ~ 18.0 | シンシア・ハーヴェー |
164.7 | 45.9 | 16.9 | スーザン・ジャフィー |
168 | 50 | 17.7 * | ワガノワ・アカデミー(女) |
169.7 | 66.2 | 23.0 | ミハイル・バリシニコフ |
182.4 | 76.5 | 23.0 | ルドルフ・ヌレエフ |
187.5 | 81.9 | 23.3 | ピーター・マーティンス |
( * 参考までにNHKで放送されたワガノワ・アカデミーの
肥満限界 (これ以上肥ると退学) も入れておきます)
女性のダンサーは明らかに「やせ」と判定できます。
それも 20 を大きく下回っています。
つねに観客の厳しい目にさらされつつもかなりの運動量を要求されるダンサーには
特別に作り上げられたからだが必要なのです。
一方、男性の方は「普通」と判定できます。
男性のダンサーは高い跳躍やリフトに耐えられる
強靭な筋肉が充実していることが優先されますので、
細い体型はそれ程必要ありません。
あなたの肥満度
じゃじゃーん。
それではあなたの身長と体重をもとにご自分の BMI を計算してみましょう。
…… BMI =体重 (kg) ÷身長 (m) ÷身長 (m) ……
いくつになりましたか。
「やや肥満」「肥満」と判定された方は、踊りを続けるのであれば、
「普通」を目標にダイエットや運動を行うことが望ましいといえます。
からだが軽くなるとステップが軽快になり動きやすくなるし、
その体重にからだが慣れてくるとダイエット後にありがちな疲れやすさもなくなります。
また、関節への負担が軽減するので怪我もしにくくなるし、
既に抱えている故障も治りやすくなります。
要するにいい事尽くめということです。
間違ってもマカロワの BMI を目標に闇雲にダイエットしたり
激しいレッスンを繰り返したりしないでください。
おそらく体調を崩す結果になるでしょう。
プロを目指すのでない限り、「普通」の範囲を目標とする、
あるいは維持することが最善ではないでしょうか。
今回はダンサーと肥満について考えてみましたが、
筋肉や脂肪の割合だけでダンサーのからだが決まるわけではありません。
ダンサーのからだを考える上で肥満度は一つの大きな要素ではあるのですが、
肥満度に現われないけれどとっても重要な要素に、
骨格、筋肉の質、最大酸素摂取量、スタミナ、脂肪を燃やせる能力などがあります。
これらも考慮してからだを作らないと総合的にダンサー向きのからだにはなりません。
これらについては、今後取り上げていきたいと思います。
また肥満の原因が遺伝的なものであったり体質的なものである場合、
痩せようとすることは本人にとっては不自然な行為になってしまいます。
程度にもよりますが「肥満=痩せなきゃ」と考えるのは早計です。
からだの声を良く聴いて何事も程々にしましょう。
参考文献
『健康運動実践指導者用テキスト』健康・体力づくり事業財団